ステップアップする教育格差の解消
2018年6月3日日曜日。快晴。
「楽学農園」と名付けた我が家の畑で、ひとつのイベントが開催された。
以前からお世話になっている「一般社団法人山元学校」の山元雅信学長と、新宿区で教育機会の不均衡(教育格差)解消に取り組む「食事つき個別指導型無料塾・ ステップアップ塾」の濱松敏廣塾長・和香子夫人と計画し、「山元学校&ステップアップ塾課外授業」と称して、山元学校の仲間やステップアップ塾の塾生を呼んでのジャガイモ収穫を行った。山元学長には、ジャガイモを植えるところから手伝って頂き、今回のイベント開催にもご尽力頂いた。感謝、感謝です。
当日は夏の陽射しのような暑さ。そんな中、山元学校のみなさん、ステップアップ塾の塾生たちが元気に駅に集結した。行きのバスの中で、田舎の田園風景や眼前に広がる筑波山やその裾野の山並みに目を丸くする塾生たち。きっと初めて見る風景なんだろうなぁと、こちらも興味深くその表情を窺っていた。農園に到着すると、さらにその表情は明るくなり、目を輝かせて畑や杉林を眺めていた。
ジャガイモ掘りはみんな初めて。おそらく土の中にどうやってジャガイモが実っているのかを見るのも初めてだったであろう。「おぉーー!」「わぁーー!」といった歓声をあげながら、自分のゲンコツ2つ分くらいのジャガイモを掘り出しては袋に入れ、どんどん進んでいく。2つの袋いっぱいになったジャガイモを抱える彼らの笑顔は、その日最高の輝きを見せた。
その後みんなでジャガイモを食し、ひとしきり語り合い、笑い合い、5時間という時間はあっという間に過ぎていった。
子どもたちの教育問題
僕がステップアップ塾を知ったのは、2017年1月。
家庭内のDVや親御さんの離婚などの複雑な家庭環境や、不登校、学級崩壊といった学校環境の問題などの理由で、思うように学習ができず、塾に通うことも出来ない子どもたちがいる。そんな学校の授業についていけなくなった子どもたちに、学力向上の機会を提供し、社会に役立つ人を育てることを目的として運営されているのが、ステップアップ塾だ。ずっと塾長の話は聴いていた。塾の様子も写真で見ていた。でも、実際にそこに通う塾生と会うのはこの日が初めてだった。
たった一度、5時間ほど会って話しただけでは、彼らの心の中に広がる世界を知ることは難しいだろう。ただ、会って話してみて思うことは、みんなフツーの子どもたちだということ。フツーという言葉を使うのはどうかと思うが、家庭環境や学校環境に問題があるようには見えず(彼らがそこを見せない努力をしているのかもしれない)、僕には畑に遊びに来た無邪気な子どもたちにしか見えなかった。
そんな子どもたちが、教育の機会を与えられず、食事もままならない状況にあるという事実は、どのくらいの大人たちが知っているだろう?国を動かす人たちの中の、どれくらいの人が認識しているだろう?5月の末に開催された、教育格差の現実を知るためのフォーラム後の懇親会では、多くの人たちが教育格差の問題の深さに驚いたと話していた。
僕はこの現実を広く知ってもらうためにも、新しい団体ともコラボしながら、今回のようなイベントを仕掛けて認知度を上げていこうと心に決めた。認知度を上げることもそうだが、何より子どもたちの輝く笑顔を増やしていきたいと思った。
日本の教育の仕組みが変わる時
5年目を迎えたステップアップ塾は、新たにトレーラーハウスを利用した、食事つき自習室の平日運営を進めるプロジェクト「SUJ THE NEXT」をスタートさせた。これまでの週に一度のステップアップ塾はそのままに、祝日を除く平日のフル稼働ができるよう、トレーラーハウスを用いた食事つきの自習室を運営する。
自習を前提としているが、早稲田大学を中心とした学生講師陣が、インターネットを介して子どもたち学習のアドバイスができるシステムを整えているという。また各地のフードバンクと連携をしながら、子どもたちが安心して学習できる環境を全国に届けていく考えだ。ステップアップ塾では、現在このプロジェクトへの支援者を募っている。プロジェクトの詳細については、専用のウェブサイトを見て欲しい。
SUJ THE NEXT
https://stepup-unesco.com/next/
僕はこのプロジェクトに、課外授業の開催場所として関わっていきたいと考えている。またフードバンクの一つとして、農園で出来た作物をみんなに食べてもらいたい。
今、我が家の畑を見渡しながら、トレーラーハウスに乗った子どもたちがやってきて、自分たちが植えたジャガイモやトウモロコシのところに、最高の笑顔で駆け出して来る様子を思い浮かべている。そしてその様子をたくさんの大人たちが、これまた最高の笑顔で見守っているのを想像する。
そして近い将来、このことを本にしたいと思っている。日本の教育の問題を解決した、ひと組の日本人夫婦とその仲間たちの物語として、世界の人々に発信しよう。
今そう決意した。
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