条約承認で進むか?書籍の電子化

条約承認で変わる障がい者の読書のあり方

2018年4月25日「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」の締結について承認を求める件が参議院本会議で承認された。この条約は,2013年6月27日に世界知的所有権機関(WIPO)の外交会議において採択され、2016年9月30日には20か国目の加入が完了し発効した。2018年7月10日現在で、40か国が締約国となっている。この条約では、著作物を点字図書や録音図書に複製し、利用しやすくするよう各国に求めている。2013年に世界知的所有権機関が採択してから5年を経て、日本も締結することとなった。これにより、障害者の著作物利用に関する国際的な枠組みづくりが進展すると期待されている。ニーズが顕在化すれば、出版の段階から録音図書の製作が進む可能性も考えられる。

日本では既に視覚障害者らが著作者の許諾を得ずに複製できるようになっているが、肢体不自由者は含まれていなかった。この条約は受益者を「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者」とし、識字障害者、書物を持つことの難しい肢体不自由者を含めた。その上で、締約国が受益者のために著作権(複製権、譲渡権、利用可能化権)の権利制限規定を設けること、受益者が利用しやすい形式の複製物の輸出入が円滑に行われるよう制度を整備することを規定している。今後は肢体不自由者が著作者の許諾を得ずに複製できるようになり、これまで利用できなかったサービス利用も進むと思われる。

視覚障害者というと、先天性、後天性の原因により目が見えない人を想像するだろう。ただ他にも、通常、会話(話し言葉の理解や表現)は普通にでき、知的にも標準域にありながら、文字情報の処理(読み書き)がうまくいかないディスクレシアの人もいる。日本でもディスレクシアの人が、人口の5%から8%はいると言われている。欧米では10%から15%。そういった人は識字障害とも言われる。

そういった障害のある人たちが利用する図書に「DAISY」がある。
「DAISY」はDigital Accessible Information SYstemの略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳されている。「視覚障害のある人や、普通の印刷物を読むことが困難な人々のために、デジタル録音図書の国際標準規格として、50カ国以上の会員団体で構成するデイジーコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行なわれている情報システムのことだ。

DAISYコンソーシアム公認のオーサリングツールを使ってデジタル図書を作ることができ、専用の機械やパソコンにソフトウェアをインストールして再生をすることができる。国内では、点字図書館や一部の公共図書館、ボランティアグループなどでDAISY録音図書が製作され、主な記録媒体であるCD-ROMによって貸し出されている。(日本障害者リハビリテーション協会より)。DAISYは、国際標準規格(W3Cで提唱されているHTML、SMILなど)を基本にした規格を開発しており、この規格をもとにDAISYを製作、再生するのためのソフトウェアおよび再生機器も開発されている。

誰かの負の解決のためにも活用できる電子書籍

昨今ではオーディオブックがトレンドに上がって来ていて、オーディオブックがDAISYの代わりになり、視覚障害者やディスクレシアの人たちのサポートになるのではないかと思った。しかしながら、実際に肢体不自由で、視力の低下が見られるようになった方と話をさせてもらうと、オーディオブックのアプリでは機能が足りなかったり、各サービスで仕様が違っていたりして、課題が残るという。その意味では、長きに渡り視覚障害者のために創意工夫を進めてきたDAISY図書に、一日の長があるのだろう。

マラケシュ条約の承認により、間も無く日本のサピエ(視覚障害者情報総合ネットワーク)図書館の利用方針も変更になるという。これまで視覚障害者に限られていた利用が、肢体不自由者にも拡大されるということだ。電子書籍関連も様々なサービスが展開され、あらゆるアプリが開発されている。

前出の肢体不自由のある若者が、「ずっと読みたい作家さんの作品があるけど、DAISY化されていないので、僕はまだ読むことができない。その作品を読むために僕もDAISY図書や電子書籍を作りたい」と言った。市場のほとんどを占める所謂一般ユーザーのための便利で面白いツールも大事だが、世界各国に一定数存在する視覚障害、肢体不自由の人たちのために、産官学が連携しさらに多くのコンテンツが電子化されることを願いたい。僕たちもその一翼を担っていきたい。

 

 

過去に出版した作品の電子化を受け付けています
http://www.g-rexjapan.co.jp/omoikaneproject/computerization/

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