町の書店を販売店に?広がるアマゾンの網
減り続ける町の書店
このブログでも何度も書いていますが、出版業界は本当に厳しい時代を迎えています。
そのしわ寄せが最も顕著なのが、町の小さな書店。今から20年前には、全国に約2万3,000店の書店がありました。それが現在では、店舗を構えている書店数は約8,800店に減少しています。(日本図書普及協会より)
「出版社〜取次〜書店」という流通構造と、再販制度によって、成り立ってきた日本の出版業界ですが、書籍以外のコンテンツが大量に投下されたことによって、今最大の危機を迎えていると言えます。
以前は町の小さな書店でも一定価格で本が手に入り、とても重宝しました。しかし、アマゾンなどのオンライン書店が生まれ、あらゆる地域でネット環境が整ったことで、その役割が必要でなくなってしまいました。さらには、業界の慣習としてある、「ランク配本」「見計らい本制度」といったものが、町の書店を苦しめる結果になったのです。
ランク配本は、取次側で店の規模によって自動的にランクを決めて、配本する冊数が決まってしまう制度。当然ながら大型書店が優先され、販売実績があっても小さな書店は後回しにされてしまう。そうなると、欲しい本が近所の書店では手に入らないということになる。そうなると、書店に足を運ぶ人もいなくなりますね。
見計らい本制度は、取次が書店側で注文していない本を、「勝手に見計らって送ってくる」システムのこと。書店側でも、自分で本を選ばなくても良いということで、このシステムを評価する人もいたといいますが、売れそうもない本が送られてきて、本当に売りたいものが入ってこないというジレンマに陥っている書店がほとんどだと思います。ヘイト本や炎上系の本など、絶対に店に置きたくない作品が、次々と配本されてきて、困っているという書店さんもいました。
消費者も販売店もアマゾンに流れていくのか?
こういった状況ですから、消費者もみんなアマゾンなどのECサイトに流れてしまいますよね。アマゾンによって、これまでの日本の出版業界の構造は次々と崩されてきました。
そんなアマゾンが、いよいよ書籍の卸販売をスタートすると発表しました。
日本経済新聞の記事によると、アマゾンジャパンは書店向けに書籍などの出版物を卸販売するサービスを本格的に始めると発表しました。法人向け電子商取引ECサイト「アマゾンビジネス」を通じて、書店に届ける仕組みとのこと。
アマゾンは、「全国にほしい本を確実に届けることが難しくなっている状況」「人手不足などに伴い、取次会社を通じた出版物流では本が希望通りに届かないケースも出ている。アマゾンが出版物を書店に送ることで地方の書店などが出版物を仕入れやすくなる」と話します。
販売価格は卸値ではなく、一般のECサイトとほぼ同額。アマゾンの物流網を使うことで豊富な品ぞろえの出版物が迅速に配送されます。最初は取次からの仕入れが遅れる場合などの補完サービスとして利用を見込んでいるとのこと。昨年春に「買い切り」手法を導入すると表明したアマゾン社。卸販売をスタートさせることで、ECサイトを利用する層以外も視野に入れ、アマゾンの網を広げていくのでしょうか。
全国で減少を続ける書店や、取次会社と契約を結べない中小出版社、そして町の書店を利用する消費者の救世主となるのか?今後のアマゾン社の動きが注目されますね。
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