「忍びの国」の感想

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先日、帰省する電車の中で読むようにいくつかの本を持っていったのですが、

文庫本になったら読もうと思っていた和田竜さんの「忍びの国」の感想です。

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時代小説の新星として脚光を浴びている和田さん。

今のところ出ているのが

のぼうの城

小太郎の左腕

忍びの国

村上海賊の娘

とありまして、私は「のぼうの城」だけ読んでいました。

それぞれの題材が「ちょっと主流から外れてるけど興味をそそる」センスを感じます。

「のぼうの城」は既に映画化・漫画化もされているので知っている方も多いと思いますが

秀吉の「小田原攻め」の脇役の忍城攻めが舞台でした。

といっても攻め手の石田三成が主役ではなく攻められるほうの成田長親が主人公です。

話の意外性もあり、とてもテンポよく読めて後味さっぱりという移動中に読むにはうってつけという感じでした。

ということで今回、残り3つのうち「忍びの国」を選んだわけです。

 

忍びの国 あらすじ…のようなもの

 

舞台は戦国時代、天正伊賀の乱です。主人公は伊賀忍びの「無門」と「下山平兵衛」という凄腕二人ですが、性格は対照的に正反対。

「無門」は捨て子から育った伊賀忍びを具現化したような性格で、基本的にお金がもらえないと動きません。

「平兵衛」は豪族の一門に生まれ上忍としてて育ちましたが、「伊賀」の人を人とも思わない風土を嫌っています。

平兵衛が無門に弟を殺され、父親がそれをなんとも思わないのを見て伊賀を滅ぼすために織田信雄側に走り軍勢を呼び込みます。

そこに伊賀の国の豪族たちがどう立ち向かう(ちなみに配下の下忍たちは自衛の戦いなのでお金が出ずやる気がありません)か、配下にありながら自由に生きている無門はどう動くのか?

新たに信雄を迎えてまとまっていない北畠家は勝つことができるのか?(なお、信長はやめろと言い残してます。)

 

感想

 

まず、この物語の肝は「伊賀の国およびそこに住む人間の異常さ」という設定です。

伊賀の国は南北30km東西20kmの狭い盆地になっており、基本的に土地がやせているのであまり農作物がとれません。なので「忍び」として他国に出稼ぎ出掛けます。なので価値観は「お金」や「損得」が一番になっています。その盆地のなかで12家の評定衆がちょっとした揉め事ですぐに殺し合いをはじめてしまうような、しかもすぐに敵味方がかわってしまうような困った人たちです。ただバランスが崩れてしまうので徹底的には殺しあわず、ほどほどでおさめてしまいます。上忍と下忍の関係もあくまでビジネスライクな結びつきにすぎません。

そこで殺されてしまうのは「殺され損」として扱われ馬鹿にされます。なんか不良漫画に出てくる学校(例:本宮ひろしとか宮田あきらとかクローズの鈴蘭とか)での派閥抗争がもっと生き死ににドライになったみたいな国です。外部からの敵に関しては一致団結(損得勘定はあるものの)してあたるのも似てますね。

この設定は従来の「凄い忍者が凄い忍術で大活躍」や「下忍が上忍の奴隷として扱われて辛い」みたいな物語とは違って、もっと軽やかで自由な感じがしました。

使者同士の探りあいや忍者と忍者との戦いの描写のテンポのよさや全体のまとまりがよく、どんどん読みすすめていけます。

読み終わるとちょっとできのよいハリウッド映画を見たような気持ちになります。あまり時代小説や歴史小説を読まない人にもオススメできます。

 

ただ、反面もっとドロドロしたコクのある小説を読みたい人には物足りないかもしれません。

たとえば主人公の1人である平兵衛はこんな国ヤダー!なくなったほうがイイ!と言って飛び出す(それすらも父親たちの読みどおりであったりするわけですが)のですけれど、こんな風土で育った人間がなぜこの主人公だけそう思うのかがイマイチ納得できるエピソードがありません。また、こんな風土で育った無門が女房に頭があがらない(夫婦生活がない)というのが腑に落ちませんでした。なんかこう着地点がきまっていて、そこにスーっと進むように書いたのかなという感じもします。

 

移動中に読む本として大変オススメできる一冊でした。皆さんも出張などの合間にどうぞ!

 

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浄法寺亘

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