女子たちの隠語から生まれた現代の「おでん」
公開日:
:
昔話
寒い季節、コンビニに入るとレジの前に並ぶおでんに心惹かれませんでしたか?
今はコロナ禍もありセルフサービスのおでんを中止しているようですが、「冬=コンビニ=おでん」というのは、しっかりブランディングされているような気がします。
この季節、家庭でもおでんの割合が増えてくるのではないでしょうか?
関東風、関西風など、各地や各家庭でいろいろな味のあるおでん。そのルーツはどこにあるのでしょうか?ちょっとおでんの歴史を見てみたいと思います。
宮中の女房言葉がおでんの語源?
おでんのルーツは室町時代に流行した「豆腐田楽」が始まりと言われています。
拍子木型に切った豆腐に、竹串を打って焼いたのが「田楽」で、語源はこの「田楽」の女房言葉からきています。
女房言葉とは、宮中などに仕える女房が使用した隠語で、田楽に「お」をつけて丁寧にして、楽を省略して「おでん」となったようです。今でも名前を短縮して呼んだりしますが、昔からそういった風潮があったんですね。
「田楽」というのは、元来笛や太鼓のリズムに合わせ舞った田植え時の豊穣祈願の楽舞のことなんですね。拍子木型に切った豆腐に串を打って焼く、その形が田楽舞に似ていることから田楽の名がつきました。田楽法師が踊る田楽は、平安時代から行われていた芸能ですが、宝暦年間の川柳で「田楽はむかしは目で見、今は喰い」というものがあり、「見る田楽」が、「食べる田楽」になったことを表しています。
田楽豆腐に使われる「豆腐」は、古くは奈良時代に中国に渡った遣唐使の僧侶などによって、日本に伝えられたとされていますが、明確な記録はありません。豆腐が記録として登場したのは、1183年(寿永2年)奈良春日大社の神主の日記の中に、お供物として「春近唐符一種」の記載があって、この「唐符(とうふ)」が最初の記録とされています。日本で豆腐が作られるようになったのは、奈良~平安時代といえそうですね。
江戸時代にファストフード化したおでん
時を経て江戸時代になると、上方で、こんにゃくを昆布だしの中で温め、甘味噌をつけて食べるようになりました。上方の煮込み田楽の誕生です。これが汁気たっぷりの今のおでんの原型といわれています。当時は汁に味を付けていなったようです。
1700年代前半頃までは、街道沿いには「飯屋」が多くあって、1700年代中頃になると、もちや田楽、煮しめなどを売る店が増えました。そして、1700年代後半になる頃には、急速に屋台が増えはじめ、飯屋・居酒屋・茶漬け屋などの店が大いにぎわったといいます。
この頃、田楽の種類も豆腐・ナス・里いも・こんにゃく・魚と増えていき、多くの種類が誕生しました。中には猪や鹿の肉などの田楽が誕生したり、魚を焼いて味噌をつけた「魚田」などが生まれました。徐々に今のおでんの形に似てきましたね。
串に刺された田楽は、その手軽さから江戸時代のファストフードとして人気を集めました。中でもこんにゃくの人気は高かったようで、江戸時代の女性が好きなものを示した言葉、「芝居、こんにゃく、いも、タコ、かぼちゃ」の中に挙げられていたほどです。その後、江戸庶民家庭の味として煮込みおでんへと進化し、家庭で食べる料理となり、おでんは現代の定番料理となったのです。
田楽の笑い話
では、いつものように民話を1つ。
今日はおでんではなく、おでんの原型になった田楽が登場する笑い話です。
『馬の田楽』
むかし、あるところで、馬子(まご)が馬に味噌樽(みそだる)をつけて運んでいました。
途中に川があったので馬に水を呑ませ、ついでに馬子は川原でひとやすみしていました。
お天道さんは真上にあるし、川風は気持ちいいし、つい、うとうとと居眠りしてしまいました。
しばらくして目を覚ましたら、馬が見当たりません。
馬が味噌樽をつけたまま居なくなってしまいました。
「こらぁ、おおごとだぁ。早よう探さんと、おおーい、馬やぁーい。どこいったぁーっ」
馬子はあわててあっちへ走り、戻ってこっちへ走り、探しまわりました。
「おおーい、馬やぁーい」と叫びながら駆け回っていると、道端の畑におじいさんが一人、菜っ葉の虫取りをしていました。
そこで馬子は、「爺さま、爺さま、ここへ馬が来なかったろうか?」と尋ねると、
「へぇっ、何ですかいのう?」
と、おじいさんは腰をのばしながら、耳に手を当てて聞きかえしました。
どうやら耳が遠いようです。
「ここへ、馬が通らなかったろうか?」
「へぇ、いいお天気になりましたなぁ」
「お天気じゃなくて、馬、馬だよ馬」
「へぇっ、馬ですか、馬は飼うとりません」
「そうじゃなくて、馬がこの道を通らなかったろうか?」
「はぁ、馬は毎日、通っておりますがのう」
「そうじゃなくて、ちょっと前に、味噌をつけた馬が通らなかったろうか?」
「ほぉ、そうですか。馬に味噌を。はぁ、そうですか」
「そうだ。味噌つけた馬。見かけなかったろうか?」
「はえっ、わしは、もう80になるだが、馬の田楽なんて、はじめて聞いた。うまいんかのう」
というお話です。
日本の民話や昔話には、落語と同様にオチのついたクスッと笑えるお話がたくさんあります。
日本の昔話をお子さんにも読んであげてみてはいかがでしょうか。
関連記事
-
謙虚さと利他の気持ちを忘れない
2023/06/16 |
ちょっと体を壊してから減量を考えるようになり、最近豆腐をよく食べています。 夏は冷奴が美味しいです...
-
鬼からのメッセージ: 昔話に隠された普遍的真実
2023/08/14 |
こんにちは、皆さん。今日は、私たちの伝承に深く根ざしている「鬼が出てくる昔話」を見ていきましょう。 ...
-
人は見てはいけないというタブーを破ってきた『蛇女房』
2023/06/09 |
日本の昔話には、「見てはいけない」というタブーが結構たくさんあります。 夫がタブーを冒したために正...
-
見てはいけないものを見て罰を受ける『雪女』
2022/04/23 |
日本の伝承をもとに、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が作品集『怪談』に収録したことで、知られるように...
- PREV
- タヌキも愛したうどんのお話「夜なきうどん」
- NEXT
- 欲を張らず謙虚に生きる「舌切り雀」