子を想う親心を描いた昔話
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最終更新日:2024/05/18
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今日は母の日でした。
みなさんどんな1日を過ごしましたか?
お母さんに素敵な贈り物をした人、家族みんなで外食をした人、手紙を書いた人、いろいろな感謝の気持ちの伝え方があったかと思います。
親思う心に勝る親心とはよく言ったもので。
お母さんたちはきっといろいろ考えてくれる子どもたちを、愛情深く見ていたのではないでしょうか。
私が子どもの頃、日本の怪談という本の中に「子育て幽霊」という話がありました。
子ども心にとても怖かったのを覚えています。皆さんご存知でしょうか?
日本には、女が身ごもったまま死ぬと、墓の中で生んだ赤子を連れて、母が幽霊になって現れるという「産女(うぶめ)」の信仰があり、平安後期の『今昔物語集』にも記載があります。
「子育て幽霊」は、産女の信仰を土台に日本の社会に定着し、妊婦が死ねば身二つにして葬る習俗の由来譚の形をとっている例もありますが、中国では宋代の『異苑(いえん)』に、これと同じ信仰と習俗が記されていて、産女の宗教観自体、中国文化の影響を受けているようです。
子育て幽霊の話は、日本全国各地で存在しますが、私の住む茨城県土浦市説もあるのです。
子育て幽霊のあらすじ
むかしむかし、ある村に、一軒のアメ屋がありました。
ある年の夏の事、夜も遅くなったので、アメ屋さんがそろそろ店を閉めようかと思っていると、トントントントンと、戸を叩く音がしました。
「はて、こんな遅くに誰だろう?」と、アメ屋さんが戸を開けました。そこに、一人の女の人が立っていました。
「あの、アメをくださいな」
「あっ、はい。少々お待ちを」アメ屋さんは女の人が持ってきたうつわに、つぼから水アメをすくって入れました。
「ありがとう」女の人はお金を払うと、消えるように行ってしまいました。
今日もアメ屋さんが戸締まりをしようと思っていると、また戸を叩く音がします。
「あの、アメをくださいな」
やはり、あの女の人でした。
女の人は昨日と同じようにアメを買うと、スーッと、どこかへ帰って行きます。
それから毎晩、女の人は夜ふけになるとアメを買いに来ました。
次の日も、その次の日も、決まって夜ふけに現れてはアメを買って行くのです。
ある雨の夜。
この日は隣村のアメ屋さんが訪ねて来て、色々と話し込んでいたのですが、
「あの、アメをくださいな」と、いつものように現れた女の人を見て、隣村のアメ屋さんはガタガタ震え出したのです。
「あ、あ、あの女は、ひと月ほど前に死んだ、松吉(まつきち)の奥さんにちがいない」
「えっ!」
二人は、顔を見合わせました。
死んだはずの女の人が、夜な夜なアメを買いに来るはずはありません。
しかし隣村のアメ屋は、間違いないと言います。
そこで二人は、女の後をつけてみることにしました。
アメを買った女の人は林を抜け、隣村へと歩いていきます。
その場所は、「はっ、墓だ!」
女の人は墓場の中に入っていくと、スーッと煙のように消えてしまったのです。
「お、幽霊だ!」
二人はお寺に駆け込むと、和尚(おしょう)さんにこれまでの事を話しました。
しかし和尚さんは、「そんな馬鹿な事があるものか。
きっと、何かの見間違いじゃろう」と、言いましたが、二人があまりにも真剣なので、仕方なく二人と一緒に墓場へ行ってみる事にしました。
すると、オンギャー、オンギャーと、 かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。
声のする方へ行ってみると、「あっ、人間の赤ん坊じゃないか! どうしてこんなところに?!」
和尚さんがちょうちんの明かりをてらしてみると、そばに手紙がそえられています。
それによると、赤ん坊は捨て子でした。
「それから何日もたつのに、どうして生きられたんじゃ?」
あの女の人が毎晩アメを買っていったつぼが、赤ん坊の横に転がっていたのです。
そして、赤ん坊が捨てられたそばの墓を見ると、
「おお、これはこの前に死んだ、松吉の女房の墓じゃ!」
何と幽霊が、人間の子どもを育てていたのです。
「なるほど、それでアメを買いに来たんだな。
それも自分の村では顔を知られているので、わざわざ隣村まで」 きっと自分の墓のそばに捨てられた赤ん坊を、見るに見かねたにちがいありません。
和尚さんは心を打たれて、松吉の女房の墓に手を合わせました。
「やさしい仏さまじゃ。母親はお乳のかわりに飴を毎日あげていたんだな。この子はわしが育てるに、安心してくだされよ」
こうしてお墓に捨てられた赤ん坊は、和尚さんにひきとられました。
それからあの女の人がアメ屋さんに現れる事は、もう二度となかったそうです。
数年が過ぎ、その子は立派な子供に成長しました。
子育て幽霊のルーツ
この話は日本全土に伝わっており、高僧や名士の異常誕生譚として伝説的に語られることも多く、僧である場合には、通幻、学信の名が、名士の場合には土持惣寛之進、月持惣之進 などの名が挙げられます。
女が支払うお金は、一文、六文、十銭などさまざまでありますが、棺に入れられた六道銭を毎夜一文ずつ使い、六夜目に飴屋があとをつけると、「墓場からもう銭がなくなった」と嘆く声が聞こえたと語るものもあります。
「妊婦を葬るときには六文銭を持たせよ」とか「妊婦を葬るときは身二つにしてから埋めなければならない」と言われますが、こういった言い伝えも本話と無関係ではないのでしょうね。 また、女の支払ったお金がしきみの葉に変わるという「銭は木の葉」的な伝承も見られ、その場合には、飴屋が女を怪しむ要因になっています。
京都・東山には、幽霊に実際に飴を売ったとする450年以上の歴史を持つ「みなとや幽霊子育飴本舗」があります。
同店の由来書の中には、「此の児八才にて僧となり修行怠らず成長の後遂に、高吊な僧になる。寛文六年三月十五日、六十八歳にて遷化し給う。されば此の家に販ける飴を誰いうとなく幽霊子育ての飴と唱え盛んに売り弘め、果ては薬飴とまでいわるゝに至る。」という一文があります。
同じく京都の立本寺でも子育て幽霊の伝承があり、墓から助けられた子は出家し、立本寺第二十世・霊鷲院日審上人となったとしています。
漢族の間にも、死者が葬られるときに持たせられた紙銭を使う話があり、死者を埋葬する際に棺にお金を納めていたことが伺えます。沖縄では、墓中に生まれた子が現世と冥界を行き来して閻魔と交渉し、地獄に落ちた父を救った話として展開されています。
子育て幽霊が伝えようとしていること
このお話が伝えようとしているのは、母親の深い愛情でしょう。
この母親は、死んでからも子どもを育てようと必死にあめを買いにいくのです。一所懸命赤ん坊が死なないように守ります。
亡くなってもなお、子どもを守ろうとする母の愛は、どこまでも深いですね。
色々な愛のかたちがありますが、慈愛という言葉があるように、親が子どもを慈しみ、可愛がるような深い愛は特別なものですね。
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