鬼を打ち負かす言霊の力
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最終更新日:2023/11/17
昔話
皆さんこんにちは。
今日は「大工と鬼六」という昔話です。
このお話ご存知ですか?
岩手県の民話として紹介されているのですが、実は原話となったとされるのは、北欧の伝説ともいわれています。
北欧の伝説では、聖人が教会を建てようとしているとトロールが、「自分の名前を言い当てるか、目玉と心臓をよこすか」の条件で教会を建てようと提案します。またフランスやドイツでも同様の伝説があり、聖人が悪魔と「橋を最初に渡った者の魂を与える」という条件で、難所に橋を架けさせます。聖人が橋を渡らせたのは豚であったために、悪魔は豚の魂で我慢しなければならないという話です。
いろいろな由来がある大工と鬼六ですが、日本でのお話はどういったものなのか、あらすじを見ていきましょう。
大工と鬼六のあらすじ
むかし、あるところに、とても流れの速い川がありました。
何べんも橋を架(か)けたことはありますが、架けるたびに押し流されてしまいました。
「どうしたら、この川に橋を架けられるだろう?」
村人たちはとても困り果てていました。
そこで村人たちは、都で有名な大工を呼んで、絶対に流れない丈夫な橋を作ってもらうことにしました。
都から来た大工はこの仕事を引き受けました。
でも、その川を見て大工は驚きました。
「こんなに流れの早い川は見たことがない、、、。どうやって橋をかけようか。」
大工が川をぼんやり眺めていると、「お前が有名な大工か、そこで何している?」と
どこからか声が聞こえてきました。
大工が驚いて当たりを見回すと、川の中から恐ろしい顔をした鬼があらわれました。
大工は鬼姿を見てぶるぶると震えながら「おれはこの川に橋をかけようとしているんだ」
と言いました。
すると鬼は大きな口を開けて、「ガッハッハ」と大笑いして、「お前がどんなに腕のいい大工でも、この川に橋をかけるのは無理だ。この川に橋をかけられるのは、オレだけだ。」と言いました。
「それならおれの代わりに川に橋をかけてくれ」と大工は鬼に頼みました。
すると鬼は「いいだろう。オレが橋をかけてやる。そのかわりお前の目玉をよこせ。」と言いました。
目玉をよこせと言われてぎょっとした大工でしたが、「ああ、わかった」と生返事をしました。
次の日、大工が川に行ってみると、驚いたことに川に橋の半分がかかっていました。
さらに次の日、川に行ってみると立派な橋が出来上がっていました。
「これは本当に目玉をとられてしまうぞ、、、。」と大工が不安に思っていると、川から鬼が現れました。
「大工よ、もう橋が出来たぞ。約束通り目玉をよこせ。」と鬼は言いました。
大工が震えながら「ちょっと待ってくれ、お前さんは鬼の世界ではさぞかし名の知れた大工なんおだろう。お前さんの名前を教えてくれないか?」と言いました。
すると鬼は嬉しそうに「そうだな、じゃあ明日までにオレの名前を当ててみろ。当たったら目玉はあきらめてもいいぞ。」と言って川の中に消えていきました。
「名前なんてわかるわけがない、、、。」と大工が独り言を言いながら歩いていると、
茂みの中から歌唄が聞こえました。
ねんねこ、ねんねこ、鬼の子よ
川へ出かけた鬼六父さん
目玉をもらってくるそうな〜
どうやらそこは鬼の住みかのようで、鬼のお母さんが子どもに子守唄を歌っているようでした。
「そうか、鬼の名前は鬼六か!」大工はそう言って家に戻りました。
次の日、大工が川に行くと川の真ん中から鬼が出てきました。
「おい大工、待ちくたびれたぞ!さあ、オレの名前を当てられるか?」と鬼が言いました。
大工がわざと困った顔をして、「鬼太郎か?」と聞くと、「違う、違う」と鬼が嬉しそうに答えます。「じゃあ、鬼吉か?」と大工が聞くと、「違う、違う。もういい目玉をよこせ!」と言いながら、鬼は大工に襲いかかろうとしました。その時「お前の名前は鬼六だな!」と大工が叫びました。すると鬼は驚いて「なんでわかったんだー?!」と言いながら川の中に消えてしまいました。
大工と鬼六が教えてくれること
このお話は、鬼と問答をし最終的には名前を言うだけで鬼を倒しているというのが特徴なんですね。
鬼が水の中から出現するという水神の性格を持ち、化け物と問答をする「化け物問答」の形式を取っており、名前を言い当てると化け物を退治する事が出来るという言霊の概念を持っている点から、個人的には日本的だなと思っています。
かつては、己の本名を知られることは致命的なことだとされていました。
「陰陽師」では、「名付ける」ことは「呪いをかける」と同義だという風に説明されています。
「真名」「忌み名」などという言葉も、実名の危険性を示すものなんです。
そんなことを知っていると、大工と鬼六はとても興味深いお話だとわかりますね。
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