出版業界の持続可能性
持続可能な出版物流を提唱
物流費の高騰は様々な業界に大きな影響を及ぼしている。出版業界も然りだ。
日本出版販売が5月23日、会員書店、会員出版社を集めた「2019年度 日販懇話会」を開催したと発表した。その席で日販の平林社長は、今後の方向性として、国土交通省が提唱する「総合物流施策大綱」に基づき、持続可能な出版物流のためサプライチェーン改革に取り組むと述べた。配送・積載効率アップによる運賃高騰の抑制や、他社・他業界との協業による、物流コストの削減などについて言及したという。また出版物の定価について、他業界では、物流コストの高騰を商品価格に転嫁しており、出版業界三者の損益構造改善には、定価の上昇が有効であることを訴え、引き続き出版社に協力を求めたそうだ。
数ヶ月前には、取次大手のトーハンの最大の取引先である日本通運が、出版物の輸送からの打ち切りを申し入れた。深夜の労働条件の改善や、日通への委託費も年2億6000万円増やして事を収めたものの、出版物の配送費を26年ぶりに出版社へ「転嫁」することを決め、出版社との交渉を始めている。物流費の高騰もそうだが、著作物の再販制度(再販売価格維持制度)がここにきて出版業界全体を苦しめはじめているののではないだろうか。
業界の制度改革が求められる
「著作物の再販制度(再販売価格維持制度)とは、出版社が書籍・雑誌の定価を決定し、小売書店等で定価販売ができる制度で、全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。」(一般社団法人日本書籍出版協会より)
どの書籍をどの書店に届けるかは取次に委ねられ、書店は届いた段ボールを開けるまで中身がわからない。出版社も自社の書籍がいつどこで売れたかに強い関心を示さなかった。出版社は取次に書籍を渡しさえすれば、数カ月後に一定の収益を得られる仕組みだ。
しかしアマゾンの出現により時代は変わり、書籍販売では一部の既刊本について出版取次大手の日販を介さず、出版社から直接取り寄せる方式に変更した。本がディスカウントできるアメリカでは、アマゾンは割引販売によってシェアを獲得してきた。それに対し、再販制度によって本が定価でしか売れない日本においては、送料をタダにしても儲かる。アマゾンの影響もあって、ECサイトでの買い物は暮らしの中でスタンダード化し、本については電子書籍をストアで購入し、アプリで読むようになってきた。
仕組みや環境の変化に対して、日本の出版業界は依然として既存の制度に乗ったままでいる。その間にも、アマゾンをはじめとしたネット書店、ネットパブリッシュサービスが、読者はおろか著者までかっさらっていこうとしているのだ。出版文化を維持する目的で生まれた再販制度は、今再編の時を迎えている。
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