デジタルが実現する絵本の世界発信
今月2日、戦後日本の創作絵本をリードした加古里子さんが92歳で亡くなられました。
1967年の発売以来愛され続ける「だるまちゃんシリーズ」や「からすのパンやさん」などの作品で、多くの子どもたちを楽しませてくれました。僕はだるまちゃんシリーズもよく読みましたが、特に好きだったのが「とこちゃんはどこ」という作品。
赤い帽子と青い半ズボンの元気な男の子とこちゃんが主役。とこちゃんは、ちょっとした隙にとことこと駆け出してどっかへ行ってしまう。僕も落ち着きのない子だったので、とこちゃんみたいだと言われていました。とこちゃんを追って人ごみの中を探すと、たくさんの人の中にとこちゃんがいます。ああ、いたいた!って。 動物園、浜辺、お祭り、デパートなど、人ごみにまぎれてしまったとこちゃんを探す、絵さがし本の元祖とも言える作品です。元祖ウォーリーを探せですね。ほかにも子どもの好奇心を引き出す科学絵本なども数多く出されていて、記憶に残る作品は枚挙にいとまがないですね。
世界が注目する日本の絵本
出版不況と言われ続けている日本の出版業界の中で、児童書が健闘しています。
出版科学研究所によると、児童書の推定販売金額は平成28年まで3年連続で前年比プラスを記録。29年は前年比0.5%減の864億円とほぼ横ばいでしたが、紙の出版物全体の市場が前年比6・9%減と大幅に落ち込む中においては、大健闘とも言えるでしょうね。
さらに今、日本の児童文学が国内外から高い評価を受けているといいます。「児童文学のノーベル賞」といわれる「国際アンデルセン賞」の作家賞を、この5年で日本人2人が受賞していますね。出版不況と少子化という状況にありながらも市場は堅調で、日本作品の存在感が国際的に向上を続けています。アニメや漫画、ゲームなどのブームも追い風になったようですね。
国際市場の日本作品に対する共通の高評価項目は、「心情描写の細かさ」や「装丁の良さ」だそう。たしかに日本の作品は、心情の機微に対する表現がとても細やかだと思いますね。そして想定の繊細さと美しさも素晴らしいと思います。もちろん海外作品も素晴らしいものがたくさんありますが、何て言うのでしょうディテールへのこだわりが違うような気がします。
日本は全国どこに行っても同じくらいの数の本が並ぶ書店が存在し(いまは減少の一途を辿っているが)、どこに行っても同じ価格で購入することができます。これは再販制度のメリットかな。また、新刊が年に数千冊単位で出てジャンルもとても多様です。国内作品だけでなく、世界各地の名作児童文学も手に入れることができます。先日ある作家さんと納得し合いましたが、日本ほど児童書が多い国はないのではないでしょうか。
日本の児童書をデジタルの力で世界へ
世界が日本の作品に注目している今、これから出版される作品はもちろん、これまでの既刊本に関しても電子絵本として出版し、より手軽に世界の人たちに見てもらう施策も必要ではないかと思うのです。絵本や児童書は紙で手にとって見てほしい、そう話す業界関係者の方もいます。ただ、絵本を選ぶのは親でもあるわけで、今の子育て世代はスマホ世代でもあります。情報をどんどん発信し、気に入ったら紙で注文を受けてもいいじゃないですか。絵本に関して言えば、電子版を見たから紙は買わないということはまず無いと思います。
僕たちオモイカネブックスは、昨年画家Akiさんの描く絵を元に電子絵本を制作し、英訳版もリリースしました。今後も電子絵本は出版する予定がありますし、ぜひ翻訳して海外へも発信していきたいと思います。
加古里子さんが、戦後未来の可能性を信じ、子どもたちのためにまき続けた希望の種を、児童書出版に関わるすべての人たちの力で、世界中で花咲かせていきたいですね。
http://www.g-rexjapan.co.jp/omoikaneproject/author05/
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